入試本番に直結させる定期試験・模試術(和田秀樹)

模試を“力試し”と思っているかぎり実力はつかない

 受験生の日常生活の中には、ヘタをすると時間的にも精神的にも、受験勉強の大きな妨げになりかねない障害がかなりある。そのワーストスリーが学校の授業であり、あのわずらわしい定期試験であり、友だちづきあいだ。これらはいずれも、私たちがごくふつうのまっとうな高校生であり、受験生であるかぎり、避けて通れないものである。となれば、方法は一つしかない。災いを転じて福となす。つまり、一見障害に見えるこれらの要素を、知恵と思い切りによって、受験勉強に役立つものに変えてしまうしかない。実際、私の体験ではそれが大いに可能であった。私の指導した受験生のあいだでも、それは大いに可能どころか、大きなプラスを生み出した。授業も試験も友だちも、対応のしかたしだいで、ワーストスリーどころかベストスリーにもなりうるのだ。

 まず試験であるが、受験生にとって、試験はごく日常的な作業のひとつだ。そのため、かえって試験をごく当たり前のことと考え、常識のワナにとらわれてしまうことが多い。試験に対する見方を、ほんのすこし変えてみるだけで、受験勉強の能率はおおいに違ってくる。

 この試験常識のウソのひとつに、模擬試験は実力計測のための、“力試し”という考えがある。これが大間違いなのだ。受験生にとって本当の“力試し”は、本番のテストだけだ。むしろ、模試はだいじなところを暗記してしまう、いいチャンスと考えたほうがいい。

 というのは模試は、試験が終わると同時にすぐ解答が配られる。私はその日のうちに答え合わせをして、間違ったところ、ヤマカンで当たったところを洗い出し、その部分をすべて暗記してしまうようにした。要するに試験の復習をするわけだ。そうしておいてから一週間後、模試と同じ問題を、100点満点をとるつもりでもう一度やってみるのである。

 この勉強はじつに効果的だ。なんといっても模擬試験だから、暗記すべきポイント凝縮されている。結果的にヤマを知ることにもつながる。それに試験中は半日、集中して机に向かっているから、ふだんよりずっと暗記力も高まっており、出てきた問題も、よく憶えてしまう。ヘタに机の前に座って三日も四日も費やすより、ずっと短い時間で、凝縮された内容を暗記できる

 私はどうせ日曜日を遊んでしまうくらいなら、できるだけ多く模試を受けて、暗記量をすこしでも増やしたほうがいいと考えて、模試をひんぱんに受けていた。ところが、多くの受験生は、模擬試験をたんなる力試しだと思っているから、自分の点数がよかろうとわるかろうと、それでおしまいにする。こんなもったいないことはないと思う。また模試を受けるなら、難しいものから、やさしいものまで、さまざまなレベルのものを受けたほうがいい。そうすればやさしい問題ではいい点がとれるが、難問には弱いとか、自分の弱点がよくわかる。また偏差値や合格可能性でバラバラの数字が出るはずだから、そのいいかげんさがよくわかっていい。

 中間テスト、期末テストについても、これと同じことが言える。中間、期末テストの一夜づけというのは、ふだんよりはるかに集中力が発揮されており、しっかりと多くのことを暗記している。そこで、たとえばテストが50点だったとしても、それはそれでかまわないから、試験のあとで、まちがった点、ヤマカンで当たった点をしっかりチェックしておき、きちんと復習しておくことがたいせつだ。放っておけば、ただの一夜づけに終わってしまうものも、アフターケアしだいでしっかりと記憶することができる。私が教えた受験生のなかでも、とくに女の子に多かったのだが、定期試験でいい成績をとっても、模試ではダメという生徒がいた。これは頭のよしあしや応用力の問題ではない。ただ定期試験のアフターケアがヘタで、暗記の貯金に結びつけていないだけなのだ。

 試験期間中は、勉強をする集中力が生まれているのだ。ふだんの受験勉強の中でも、この集中力のある状態になったのだから、その状態を崩してしまうのは、もったいないではないか。いったん崩れた集中力をとりもどすのは、けっこう難しいことなのだ。試験が終わったら、のびのびと遊びたいのはやまやまだが、試験後の1週間は、試験問題を復習し、間違ったところなどを丸暗記するようにしたい。そうしておけば、一夜づけの努力が、一夜に終わらず、暗記の“貯金”をさらに増やすことができるのである。

 ●模試、定期試験は試験直後に解答を丸暗記せよ。

 ●模試はいろいろなレベルのものを受けよ。

引用文献『難関大学も恐くない 受験は要領 たとえば、数学は解かずに解答を暗記せよ』(和田秀樹著 PHP文庫)

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