コンピュータを硬い機器と表現すると、脳は柔らかい臓器と表現できます。デジタル型のコンピュータとアナログ型の脳は、その回路が決定的に違います。
まず、コンピュータです。コンピュータはすべての情報をデジタル化します。もっといえば、すべての情報は0と1に変換されます。ですから、オール・オア・ナッシングであり、その中間はありません。一方、脳の神経回路はあいまいです。記憶はすぐに消えてしまったり、コンピュータのように「はい」か「いいえ」だけでなく、その中間も存在します。
このあいまいさは、コンピュータにはない脳のシナプスが演出しています。シナプスはちょうど鉄道の乗換駅のようなものです。神経繊維と神経繊維の間にすきまが存在していて、これがあいまいさを生み出しています。
情報は、このすきまを流れるアセチルコリンやグルタミン酸といった化学物質により電気信号に変換され、伝達されます。もしも電気信号が弱いと、この化学物質は少量しか放出されません。それが、コンピュータのような0か1といった二者択一ではなく、あいまいさを生み出しているのです。
コンピュータのように、入力された情報を画一的に送るのではなく、シナプスにおける伝達によってさまざまな情報に変換されて送られる――それが可塑性と呼ばれる脳の特徴です。
言い換えれば、アナログ信号により情報はどんどん変質していくということです。つまり、脳という臓器は、正解か不正解という二者択一の無味乾燥なコンピュータと違い、その可塑性を活かして情報を加工しながら、1回ではなく何度も小さな訂正を加えつつ、正解に導いていくのです。
この事実が私たちに教えてくれる効果的な学習法とは何でしょう? それは、粘り強く正解を出すまでやめないというあきらめない力であると私は考えています。脳の可塑性を活用すれば、たとえ不正解でも努力を積み重ねることにより、着実に正解にたどりつけます。スポーツ界のチャンピオンにしても、どんな逆境に見舞われても、あきらめずに頑張り続けたから頂点に登り詰めることができたのです。
これは、まったく勉強にも応用できます。いくら頭が良くてもあきらめる癖のある人は、勉強の勝者の仲間入りはできません。勉強とは試行錯誤の繰り返しです。粘り強く正解を導き出すまで勉強をやめないことこそ、勉強の達人が行っている共通点です。
引用文献『勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意』(児玉光雄 SBクリエイティブ)