勉強では効率的に記憶することが欠かせません。書店に記憶術を扱った本がたくさん並んでいるのも、このことを良く示してくれています。インターネットで記憶力に関する本を検索したら、少なくとも数百冊は出てきます。この事実からも、多くの人々が記憶力を高めることに関心を持っていることがうかがえます。ここでは、受験当日までの時間が限られている受験生や、資格試験などに日夜、精を出している多忙なビジネス・パーソン向けに、効率的な記憶術をお伝えします。
記憶は、そのステージにより3つのステップに分類できます。最初のステップは、①記銘です。記憶したい事柄を、視覚を中心とした感覚器官を通して脳に入力する作業です。
次のステップが②保持です。記銘により海馬に一時的に記憶した事柄を、大脳新皮質に長期記憶として保持する作業です。
そして最後のステップが③想起です。保持された記憶を臨機応変に出力する作業です。前述したように、脳は記憶することよりも忘れるほうが得意な臓器です。入力した情報がすべて記銘・保持されたら、脳は早晩パンクしてしまうからです。
私たちが普段、入力する事柄のほとんどは、一時的に脳に存在するだけでいい事柄です。認知心理学においては、ワーキングメモリー(作業記憶)と呼ばれています。
たとえば、スーパーで購入して冷蔵庫に入れた食材は、料理して食べてしまえば忘れていい事柄です。もっといえば、忘れなければならない事柄です。
これはあくまでも私の推測にすぎませんが、脳内にはたとえば冷蔵庫の中の食材を記憶することだけに使われる固有の脳細胞があって、最新の食材が冷蔵庫に入れられると、自動的にそこの記憶が書き変えられる機能が備わっているはずです。
あるいは、駅で買う切符の行き先や、行きつけのレストランで食べるメニューなども、その行為を終えたら自動的にその内容を消去する脳の領域があるはずです。
●記憶は復習で定着する
しかし、勉強における脳の領域がそれでは困ります。長期記憶としてしっかりと保持するためには、記憶を保存する「倉庫」が必要です。私が推測する倉庫は、カテゴリー別になっていて、そこには、より小さな倉庫も存在します。より細かく分類され、半永久的に保存される記憶は、この倉庫に納められています。
もし、想起する作業を頻繁に行わなければ、あなたはその記憶が、どこに収納されているかわからなくなり、想起できなくなります。これが中高年の人たちに起こる「ど忘れ」です。もちろん若い人たちにもこの現象は起こります。
せっかくテスト勉強をしたのに、肝心のテスト中にその記憶がなかなか思い出せない、という現象はその典型例です。記憶した事柄の出し入れ作業が大事なのは、そういうことです。この本でも触れている繰り返し効果は、記憶の入力作業だけでなく出力作業においても重要なのです。
最近の脳科学の研究では、たとえ記憶が、貯蔵されている倉庫に記憶されている事柄であっても、思い出すことなく放っておけば、冷蔵庫の中の食材同様、記憶から葬り去られる運命にあると考えられています。
もしあなたが安定して記憶を保持したいなら、記憶した事柄を頻繁に倉庫から出し入れすることが大事なのです。これが復習という作業です。このとき、記憶したテキストを見るだけでも想起する効果はあるのですが、それよりも、声を出して読み上げたり、自らの手でノートに書き記したりするほうが、明らかにその事柄が想起されやすくなります。見る(視覚)ことと連動させて、書いたり(触覚)、聴いたり(聴覚)して感覚器官を総動員する作業が、記憶をより安定させてくれるのです。
引用文献『勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意』(児玉光雄 SBクリエイティブ)