ぼくが高校のとき、明るくてよくしゃべる英語のT先生が、ひどく不機嫌になったことを2回覚えている。1つは、単語テストで正しく英語が書けている生徒が、その語を読めなかったときだ。「君は、読まずにつづりだけ覚えているのか」と言われて、その生徒が「はい」と答えると、T先生は「そんな語学の勉強があるか!」と言ってえらく怒った。
もう1つは、decay(衰える)という単語がテキストに出てきて、それを調べてこなかった生徒がいたときだ。そこまではまだ機嫌はよく、「まあ、いいから読んでごらん」とやさしく言った。ところが、その先生が「ディセイ」と発音したところ、T先生は、「なんて、センスが悪いんだ!」と、とたんに不機嫌になった。正しくは、「ディケイ」[dikēi]である。たしかに、英語にある程度なじんでいれば、-cayというスペルを[sei]とはまず読まないだろう。
T先生の怒りはもっともだと思う。外国語の発音やアクセントは、なんといっても発音して体で(舌で)覚え込むものである。知っていると役に立つルール(綴りと発音の対応とか、アクセントの位置とか)がないわけではないが、それも発音練習の補助だと思ったほうがいい。vibration(振動)をbibrationと書いたり、mathematics(数学)をmasematicsと書いたりするのも、「ふだん、正しく発音していません」と白状しているような、恥ずかしい間違いである。T先生なら、きっとまた怒りがこみあげてくるに違いない。
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