人間の脳は「マルチタスク」ができない
人間の脳は、計り知れないポテンシャルを持っている。これはまったく正しいと思います。
ある研究によると、脳の記憶容量をコンピューターの理論で疑似的に算出したところ、17.5テラバイトという数字が導かれました。「ウィキペディア」の情報総量は約1テラバイトですから、人間の脳は「ウィキペディア」約17個分の情報を記憶できると考えれば、実にすごい記憶力です。
一方で、人間の脳が同時に処理できる情報量はものすごく少ないことがわかっています。3個の情報を同時に処理しようとしただけで、脳の作業領域「ワーキングメモリ」は満杯になってしまいます。
いうなれば20年前のパソコン。ソフトを3つ同時に立ち上げるとパソコンの処理速度が猛烈に遅くなって、4つ目のソフトを立ち上げた瞬間にフリーズする。そんなイメージです。
人間の脳はパソコンでいうと、ハードディスクの量はものすごくあるのに、メモリの量は非常に乏しい。ですから、この少ないメモリを大切に使わないと、アウトプットの作業効率が、極めて低下してしまいます。
同時に複数の仕事をこなすことを「マルチタスク」といいます。マルチタスクとは、「仕事に関するメールを打ちながら、大切な得意先との電話連絡をする」「企画書を作成しながら、部下からプロジェクトの進捗報告を聞く」などの行為です。最近の脳科学研究では、人間の脳はマルチタスクができない、ということが明らかにされています。
たとえば「ながら勉強」。テレビを見ながら、宿題をするという場合。この場合、「テレビを見る」と「宿題する」という行為を同時進行しているわけでなく、すさまじいスピードで2つのタスク処理を切り替えているにすぎないのです。脳の中では、「切り替え」を何度も行っているので、脳に猛烈な負荷がかかるとともに、脳の処理能力も低下します。
ある研究では、マルチタスクによってひとつの課題に集中してあたれない場合、その課題を完了するのに時間が50%も余分にかかることがわかりました。
またそれだけではなく、間違いをする率も、最大50%も高くなりました。別の研究では、2つの似たような作業を同時に行わせた場合、効率は80~95%も低下しました。
マルチタスクをする場合、2つのことを別々にやるよりも時間がかかってしまうのです。さらに間違いやミスをする率も1.5倍に跳ね上がるのです。
ということで、「マルチタスク」は絶対にやってはいけない仕事術です。とにかく、目前のひとつのことに集中してアウトプットするのが、最も効果的なアウトプット法といえます。
あれもこれもと欲張らず、一点突破しよう。
引用文献『学びを結果に変える アウトプット大全』(樺沢紫苑著 サンクチュアリ出版)