知的側面(スティーブン・R・コヴィー)

 ほとんどの人は、正規の学校教育で知性を伸ばし、勉学する姿勢を身につける。しかし学校を卒業するなり、知性を磨く努力をぱったりとやめてしまう人が少なくない。真剣に本を読まなくなり、自分の専門外の分野を探究し知識を広げようとせず、分析的に考えることもしなくなる。文章を書くこともしない。少なくとも、自分の考えをわかりやすく簡潔な言葉で表現する能力を試そうともしないのだ。その代わりにテレビを見ることに時間を使っているのである。

 ある調査によれば、ほとんどの家庭で週に三十五時間~四十五時間もテレビがついているという。これは一般的な週の労働時間とほぼ同じであり、子どもたちが学校で勉強する時間よりも長いのである。テレビほど社会的影響力の強いものはない。テレビを見ると、そこから流れてくる価値観にいとも簡単に引き寄せられる。実に巧妙に、知らず知らずのうちに、私たちを強烈に感化しているのである。

 テレビを賢く見るには、第3の習慣に従ってセルフ・マネジメントをしっかりと行う必要がある。自分の目的のためになり、自分の価値観に合う番組、適切な情報を得られ、楽しめて、インスピレーションを刺激してくれる番組を選ぶようにする。

 わが家では、テレビの時間は週に約七時間までと決めている。一日平均一時間ほどである。あるとき家族会議を開き、テレビが家庭に及ぼしている弊害を示すデータを見ながら話し合った。家族全員が素直に、かたくなにならず話し合うことができ、連続ドラマにはまったり、テレビをつけっぱなしにしたりする。「テレビ中毒」は依存症の一種だということを、家族の一人ひとりが自覚できるようになった。

 ただし、私はテレビの存在に感謝しているし、質の高い教育番組や娯楽番組を楽しんでもいる。そういう番組は生活を豊かにしてくれるし、自分の目的や目標に役立つこともある。しかしその一方で、時間と知性の浪費にしかならない番組、ただ漫然と見ていたら悪い影響しか及ぼさないような番組もたくさんある。自分の肉体がそうであるように、テレビはよい下僕にはなっても、よい主人になることはない。自分の人生のミッションを果たすために使える資源を最大限効果的に活用するには、第3の習慣を実践し、自分自身をきちんとマネジメントできなければいけない。

 継続的に学ぶこと、知性を磨き広げていく努力をすることは、知的側面の再新再生には不可欠である。学校に通うとか、体系的な学習プログラムを受講するなど、外からの強制的な教育が必要な場合もあるだろうが、たいていはそのようなものは不要である。主体的である人なら、自分の知性を磨く方法をいくらでも見つけられるだろう。

 知性を鍛え、自分の頭の中のプログラムを客観的に見つめることはとても大切である。より大局的な問題や目的、他者のパラダイムに照らして、自分の人生のプログラムを見直す能力を伸ばすことこそ、教育の定義だと私は考えている。このような教育もなく、ただ訓練を重ねるだけでは視野が狭くなり、その訓練をどのような目的で行うのか考えることができなくなる。だから、いろいろな本を読み、偉人の言葉に接することが大切なのだ。

 日頃から知識を吸収して知性を広げていこうと思ったら、優れた文学を読む習慣を身につけることにまさる方法はない。これもまた波及効果の大きい第Ⅱ領域の活動である。読書を通じて、古今東西の偉大な知性に触れることができる。ぜひ一ヵ月に一冊のペースで読書を始めてほしい。それから二週間に一冊、一週間に一冊というようにペースを上げていくとよいだろう。「本を読まない人は、読めない人と何ら変わらない」のである。

 優れた古典文学や自伝、文化的な視野を広げてくれる良質の雑誌、現代の多様な分野の書籍を読むことによって、自分のパラダイムが広がり、知性の刃を研ぐことができる。本を読むときにも第5の習慣を実践しよう。まず理解に徹しようと思いながら読めば、知性の刃はいっそう鋭くなる。著者が言わんとしていることを理解しないうちに、自分の経験に照らして内容を判断してしまったら、せっかくの読書の価値も半減してしまう。

 文章を書くことも、知性の刃を研ぐ効果的な手段である。考えたことや体験したこと、ひらめき、学んだことを日記につけることは明確に考え、論理的に説明し、効果的に理解できる能力に影響を与える。手紙を書くときも、ただ出来事を書きならべて表面的な話に終始するのではなく、自分の内面の奥底にある考えや思いを文章で伝える努力をすることも、自分の考えを明確にし、相手からわかってもらえるように論理的に述べる訓練になる

 スケジュールを立てたり、何かを企画したりすることも、第2、第3の習慣に関わる知性の再新再生になる。計画を立てるのは、終わりを思い描くことから始めることであり、その終わりに至るまでのプロセスを頭の中で組み立ててみることである。知力を働かせ、始めから終わりまでのプロセスを思い描き、想像してみる。一つひとつのステップを事細かく思い描くことまでしなくとも、全体の道筋を見渡してみればいい。

「戦争の勝敗は将軍の天幕の中で決まる」と言われる。最初の三つの側面――肉体、精神、知性――の刃を研ぐ努力を、私は「毎日の私的成功」と呼んでいる。あなたの内面を磨く時間を毎日一時間とることを勧めたい。これから一生、毎日一時間でよいから、ぜひそうしてほしい。

 一日のうちわずか一時間を自分の内面を磨くことに使うだけで、私的成功という大きな価値と結果が得られるのである。あなたが下すすべての決断、あらゆる人間関係に影響を与えるだろう。一日の残り二三時間の質と効果が向上する睡眠の質までよくなり、ぐっすりと眠って肉体を休ませられる。長期的に肉体、精神、知性を日々鍛え、強くし、人生の難局に立ち向かい乗り越えらえるようになるのだ。

 フィリップス・ブルックス(訳注:米国の宗教家)は次のように言っている。

 これから何年か先、君が大きな誘惑と格闘しなければならない日がくるだろう。あるいは人生の深い悲しみを背負い、その重さにうちふるえる日がくるだろう。しかし本当の闘いは、今ここですでに始まっている。大きな悲しみや誘惑にぶつかったとき、惨めな敗北を喫するか、栄光の勝利を手にするか、それは今決まりつつある。人格をつくるには、こつこつと努力を重ねていく以外に方法はないのだ。

引用文献『完訳 7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著 キングベアー出版)

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