学生は戸惑った顔で言った。
「たぶん、何年もずっと同じことはしてないかもしれないですね」
問題はそこだ。最初は有望に見えたベンチャー企業の多くは、失敗に終わる。楽観的なビジネスプランの多くも、ゴミ箱行きになる。
「まあ、いまの会社をずっと続けてはいないかもね。でも業界から足を洗ったとか、まったく畑ちがいのビジネスを始めたとしたら、さっきのあなたの話は、やり抜く力のある証拠と言えるかどうかは疑問ね」
「じゃあ、同じ会社をずっと続けるべきだと?」学生はたずねた。
「いいえ、そうとは限らない。でも、目標が次々に変わるようでは――まったく別の分野にあれこれ手を出しているようでは、だめでしょうね。やり抜く力の強い人は、そういうことはしないものよ」
「でも、いろんなことに手を出したとしても、それぞれものすごくがんばったとしたら?」
「ものすごくがんばるだけでは、やり抜く力があるとは言えないの。それだけでは不十分だから」
学生は一瞬、黙り込んだ。
「どうしてですか?」
「そうね、ひとつには、一流になるための近道はないから。専門知識をしっかりと身につけるのも、難しい問題の解決法を見つけるのも、ほとんど人が思っている以上に、ものすごく時間がかかることなの。そして優れたスキルを身につけたら、それを生かして人びとの役に立つ製品やサービスを生み出さなければならない。ローマは一日にして成らず、よ」
学生が黙って耳を傾けていたので、私は話を続けた。
「そして、これがいちばん重要なこと。やり抜く力は、自分にとってかけがえのないことに取り組んでこそ発揮されるの。だからこそ、ひたむきにがんばれるのよ」
「自分が本当に好きなことに打ち込む、ってことですね。わかりました」
「そう、自分が本当に好きなことに打ち込むの。でも、好きになるだけじゃだめなのよ。愛し続けないとね」
引用文献『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(アンジェラ・ダックワース著 神崎朗子訳)ダイヤモンド社