書き慣れた答えは強化された記憶に
ノートに「書いた」形跡が、やりがいにつながったことは前項にも書いたとおりですが、実はこれは本番の試験にこそ、力を発揮してくれます。
小学生のころ、父に算数のテスト問題の復習を見てもらっていたときのこと。間違ったところは、もう分かったから、計算しなくてもいいよね」と私が言うと、父に「今、とにかく自分の手を動かして計算して問題を解きなさい」と諭されました。それに対し、私が「今度の試験で問題をミスしないようにすればいいでしょう?」と言うと、「間違った問題は、間違ったときに手を動かして解いておかないと、ダメなんだ。今やらないで、次のテスト(本番)ではできる、ということはない」と。実際にやってみないで、「やればできる」とすませてしまう危険性を教えてくれました。
「今、手を動かして解かないなら、できないのと同じ」。その教えは後々生きました。
塾の講師をしていたときに、解き方が分かってしまうと、実際に手を動かして細かい計算をするのを、面倒がる子がいました。「ここから先は、やればできるんだから、省いていいでしょ」というのが口癖です。ですが、そういう子に限って、テストでも、計算ミスをしてしまいます。
私の先輩は、司法試験の勉強をするとき、頭で理解して自分で説明できればよいと考えていたそうです。実際に手を動かして、解答用紙に答案を書き込むことをしなかったのです。司法試験は、鉛筆ではなく、ボールペンのような消せないもので解答します。だから、後で見直して書き加えられるように、字と字の間を広めにとったり、工夫が必要です。そんなことをまったく知らない先輩は、本番で、解答用紙のコツがつかめずに、戸惑ったそうです。
他の大学でも教えている講師の先生が、東大の授業に来たときに、「東大生は、他の大学に比べてマークシートを塗りつぶすのが速い」と言っていました。これだって、東大生が実際に手を動かして、より多くのマークシートを塗りつぶしてきた結果かもしれません。わずかの差ですが、こういう積み重ねは意外と効いてきます。
さらに、「書いたほうが覚えやすい」とも父に言われました。確かに「手で覚える」ことは記憶の強化になります。本番の試験では、平常心のつもりでも緊張してしまうものです。覚えているはずの漢字が抜けてしまって、頭が真っ白になることもあります。そういうときに、私は、考えるのをやめて、ひたすら鉛筆を持って手に任せます。何度も書き慣れた答えを、私の手が必ず覚えていてくれるからです。
東大時代に受けた司法試験でも、問題を読み飛ばして、まったく見当違いの解答を書くという失態を犯しました。ラスト15分で気づいたときはパニックになりそうでしたが、心を落ち着け、試験管に「新しい用紙をください」とお願いしました。腕時計を見ると、その時点で10分しか残っていない。でも、今まで書き続けてきた自分の手を信じて、猛スピードで書き直し、なんとかクリアしました。
こういう緊急事態のとき、ふだんから書き慣れてないと、速く書くこともできません。「手を動かす」ことは、小学生のときに、身につけたい勉強習慣です。
ここがポイント!
●頭で分かっていても、書いて解かないと本番でできないことがある
●書くことで記憶が強化できる
●ふだんの勉強で「書く」ことを大切にすれば答案も速く書けるようになる
引用文献『東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える合格習慣55』(山口真由著 学研プラス)