言語というのは、それが日本語であれ英語であれ、基本的には一定の規則に則って単語が並べられ、それによって一定の意味をもたらすようになっています。そうした言語の一定の規則というのがまさに文法です。
アメリカ人やイギリス人のように英語が母国語である場合は、生まれたときから英語環境の中で育っていますので、英文法という英語の文章規則が自然に身についていきます。
それは日本人が特に勉強せずとも、日本語の文章規則である日本語文法を自然に身につけていくのと同じことです。
しかしながら、英語のような外国語を日本人が身につけるとなるとそうはいきません。特に英語のように日本語とは文章の構造も発想もまったく異なった言語を外国語として学習する場合には、そうした文章の構造原理を分かりやすく整理した文法をまず理解することが何よりも大切になってきます。
これについては、前章で英文法とは「スポーツのルール」のようなもので、「スポーツをやりたいと思ったら、ルールを学んで技能を磨くしかありません」という鳥飼氏の言葉を紹介しましたが、英文法を勉強することは、英語という競技に本格的に参戦するためには絶対に避けて通れない前哨戦なのです。
孫子の有名な言葉に「彼を知り己を知れば百戦殆からず」というものがありますが、英文法を勉強するというのは、まさに英語の基本原理という「彼を知る」ことであり、それによって初めて英語と戦う準備が整うことになるのです。
たしかに、英文法の勉強というのは大変難しく退屈なものです。しかも覚えることが非常に多いため、できれば避けて通りたいという気持ちになるのもよく理解できます。実際、私自身も、中高時代の英文法の授業は苦手で、あまり好きにはなれませんでした。
また、英語というのは他の言語に比べても文法的な例外が非常に多いため、せっかくある文法規則を覚えても、それが当てはまらないことがよくあります。あまりにも例外が多いという、そうした英語の特徴も英文法嫌いになる一つの原因になっているだろうと思います。
しかし、ここで忘れてならないのは、英文法を勉強することは、たしかに覚えることが多く退屈な作業ではありますが、あとでその苦労が十二分に報われる、英語を身につけるための最も効率的な勉強法であり、投資であるということです。特に英語のように日本語とは文章の構造、発想、考え方など、何から何まで違う言語を習得する場合には、文法という形でまとめられた言語の基本構造を理解しておくことは、その言語を学習するための最も効果的なやり方なのです。
また、文法を十分に理解することなしには、英文を正確に理解することはもちろんのこと、海外のビジネスマンと内容のあるコミュニケーション(書く、聞く、話す)を行うことも絶対にできません。少し厳しい言い方になるかもしれませんが、文法をしっかり勉強せずに英語をモノにすることは絶対に不可能であることを、まずここで再確認しておきたいとい思います。
引用文献『ビジネスマンの英語勉強法』(三輪裕範著 ちくま書房)