勉強の成否のカギを握る海馬を理解する(児玉光雄)

 海馬という器官の機能を理解することは、効率的な勉強をする上で避けて通れません。海馬は脳の一部で、この器官が記憶に大きく関与しています。海馬はちょうど耳のあたりに位置する、太さ1㎝、長さ5㎝程度と、ほぼ小指と同じ大きさの小さな器官です。

 脳の容量は限られています。しかも、パソコンのようにメモリやHDDを増設することは不可能です。そこでこの海馬が、必要な情報と不必要な情報とを仕分けているのです。

 海馬と結び付いている大脳基底核は、記憶をもとにした予測や期待にもとづくような行動に関与したり、適切な運動を選択したりしています。また、(へん)(とう)(かく)は別名「好き嫌いの脳」とも呼ばれ、海馬に蓄積された記憶を好き嫌いで仕分けています。

 脳内に留まっている時間により、記憶は長期記憶短期記憶に分類できます。あなたの意思にかかわらず、脳にはおびただしい量の情報が侵入してきます。海馬はこの仕訳を行っている器官なのです。大脳表面の大脳皮質には、海馬が「記憶するに値する」と判断した情報だけが長期記憶として保存されます。

 それでは、どんな記憶が保存されるのでしょう?

 基本的にまず、生命を維持するために必要な記憶が最優先されます。そういう意味では、資格試験や受験勉強に不可欠な知識は生命維持とほとんど無縁であるため、放っておけば短期記憶として処理され、葬り去られる運命にあります。一方、身体に悪影響を及ぼす情報は、記憶しやすくなります。「平氏が壇ノ浦で滅びたのは1192年である」という記憶よりも、「テングダケは毒キノコである」という記憶のほうが、長期記憶として定着しやすいのです。

 逆に、冷蔵庫の中に保存されている食材が長期記憶として脳内に保存されることはありません。なぜなら、その食材を使ってしまったら、もはや記憶する意味がまったくないからです。このように、海馬は人類が長い歴史の中で身に付けた合理的な機能を持っているのです。

引用文献『勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意』(引用文献『勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意』(児玉光雄 SBクリエイティブ) SBクリエイティブ)

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