学校の現状を立て直すには、ICTの役割を大きくする必要がある。日本の警察組織が捜査の現場に防犯カメラやNシステムのネットワークをつないでDX化したように、学校組織にもDX化が必須であるのは論を俟たない。要は、いかに前向きに舵を切るかである。
現在の学校では、教室で教員による直接授業によって知識を伝えるのを前提としているが、私はざっと、今の半分の授業を動画で学ばせればよいと考えている。
詳細は第二部に譲るが、「学校というのは、教師が児童生徒に生で学習指導と生活指導をする現場である」という常識を、まずは解き放ってもらいたい。動画に任せるのは少しも悪いことではない。
それが法的にも許されることを、付け加えておきたい。研究機関OpenAIが開発した話題の対話型AI「ChatGPT」にも、ここでご登場願う。
まず、あなたは「日本の学校教育法の中に、学校の授業中に先生がYouTubeの動画を使って授業するのに障害になる法律の条文はありますか?」という質問に答えられるだろうか。
もしも答えられるとしたら、相当な専門家だろう。たいていの教員も知らない。私ももちろん知らなかったから、ChatGPTと専門家(文科省の第一人者)に同じ質問をしてみたのが以下の結果だ。
さあ、答えを比較してみよう。まずは、ChatGPTから。
「私はAIアシスタントであり、日本の法律専門家ではありませんが、私の知る限り、日本の学校教育法には、授業でYouTubeの動画を使用することに直接的に障害になるような条文は存在しません。
ただし、学校教育におけるインターネットの使用に関する指針が存在し、インターネットを安全に活用するためのガイドラインが示されています。また、個人情報保護法や著作権法などの関連法令にも遵守する必要があります。
具体的には、著作権法に基づき、YouTubeにアップロードされた動画には著作権があるため、授業で使用するには著作権者からの許諾が必要になる場合があります。また、動画によっては、不適切な内容が含まれている場合があるため、教育的価値があるかどうかを十分に検討する必要があります。
したがって、YouTubeの動画を授業で使用する場合は、著作権や個人情報保護などの法律を遵守する必要があり、また、安全かつ適切な方法で使用するようにする必要があります。(以上、ChatGPTの答えをそのまま引用〈2023年2月時点〉)
次に、文科省の合田哲雄氏(初等中等教育局の審議官も務めた第一人者で、現在は文化庁次長)に同じ問いかけをした結果を引用する。私が最も信頼している人物のおひとりだ。
「教材は自分で一から手作りするべき、授業においてYouTubeの動画を使うのはダメといった自前主義の発想は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)時代の思考法の真逆です。
あらかじめ決められたコースを手順どおりまっすぐ歩むのではなくて、デジタルを活かして『人の褌』で相撲を取ってみて、状況を踏まえ軌道修正する。
学校は、先生も子どもも安んじて失敗が許される場です。子どもに関することだから失敗が許されないと自縛に陥ってしまったら、改革は絶対できませんね。デジタル化により、結果を踏まえた軌道修正を短いスパンで行いながら挑戦と進化を重ねることが可能になっています。
この教育界の伝統的な『自前主義』は教育界の自己規制です。敢えて言えば、学校教育法第34条第1項に定める教科書使用義務ですが、この使用義務はYouTubeやオンライン先生の動画を使って授業することを禁止するものではありません」
(以上、リヒテルズ直子、苫野一徳共著『公教育で社会をつくる ほんとうの対話、ほんとうの自由』〈日本評論社〉より一部を合田氏が修正・加筆の上抜粋)
つまり、双方とも「学校の授業中に先生がYouTubeの動画を使って授業するのに障害はない」と結論づけている、と解釈できる。ここでは法的に問題がないことを確認した。その上で、詳しいやり方は第二部に後述する。
ChatGPTは2022年11月末にリリースされ、2023年1月までに世界で1億人のユーザーを獲得した生成系AIだ。ユーザーとチャットしながら、文章を組み上げていく中で学習し成長する。1日に1億人から学んでいるAIだとも言える。
(中略)
毎日1億人のユーザーからアップ・トゥ・デイトの情報を学習しているChatGPTは、巨大なネット空間に存在するデータベースから文章を紡ぎ出して教えてくれる存在ではあるが、逆に、最も多くの人物から学ぶ学習者でもある。現在はトンチンカンな答えを出すこともあるが、5年もすれば無数のフィードバックを受けて精度が飛躍的に上がるだろう。
こうしたAIが教育の世界を根底から変えるのは間違いない。
しかし、それは教員の仕事を奪う方向ではなく、むしろ支援する方だとChatGPT自身は考えているようだ。ChatGPTに行った次のような未来予測の問いの答えを引用して、本章を締めよう。
Q「あなたのようなAIが進化したら、教員の仕事は無くなるんじゃないでしょうか?」
A「私のようなAIが進化した場合でも、教員の仕事が完全になくなるわけではありません。教員は、単に知識を教えるだけではなく、生徒たちに学習プロセスを支援し、学びの質を高めることが求められます。
AIは、あくまでも人工知能であり、人間の教員が持つ教育現場の役割を代替することはできません。教員は、生徒たちの学習課題に対するフィードバックを提供し、学習の進捗状況を追跡し、生徒たちが自己表現や批判的思考能力を発揮できるようにサポートする役割を果たしています。
また、AIはあくまでも情報処理や分析を担当するため、教員は生徒たちとの人間関係やコミュニケーションを通じて、彼らが個々に抱える問題や課題に対応することが求められます。そのため、教員がAIと協力して生徒たちをサポートし、教育現場をより効果的かつ効率的に運営することができるようになると考えられます」(以上、ChatGPTの答えをそのまま引用〈2023年2月時点〉)
引用文献『学校がウソくさい 新時代の教育改造ルール』(藤原和博著)朝日新聞出版