ひとりが賢くなると、まわりも賢くなっていく(アンジェラ・ダックワース著)

 このように、知能検査でIQスコアの大幅な上昇が見られる分野があることについて、その理由を説明するため、フリンは「バスケットボール」と「テレビ」の関係を例に挙げた。この100年で、バスケットボール選手たちの競争は、あらゆるレベルで熾烈になった。フリンも学生時代にバスケットボールをやっていたため、ほんの数年で試合のルール改正がたびたび行われたのを覚えている。その背景にはどんな事情があったのだろうか?

 フリンによれば、それはテレビの影響らしい。バスケットの試合はテレビ画面で楽しむのに最適で、テレビで観戦する機会が増えるにつれて、バスケの人気も高まっていった。

 テレビが一般家庭に普及すると、多くの子どもたちがバスケをするようになり、左手のレイアップやクロスオーバー、あざやかなフックショットなど、スター選手のプレーをまねするようになった。ひとりの子どもが上手になれば、一緒にプレーをする子どもたちの学習環境は必然的に向上する。バスケがうまくなるコツは、自分よりややスキルの高い仲間と一緒にプレーすることなのだ。

 フリンはこのスキル上達の好循環を「社会的相乗効果」と呼び、抽象的な思考能力における世代間の格差についても、同じ理論で説明した。

 この100年間で、人びとが仕事や日常生活で分析的、論理的に考える必要は高まるいっぽうだった。学校での教育年数が長くなるほど、機械的な暗記に頼るのではなく、ますます論理的に考えることが求められる。

 環境の変化であれ、遺伝子の変化であれ、小さな変化が好循環を引き起こすきっかけとなる。どちらの場合も社会的な相乗効果が生まれ、文化をとおして広まっていく。なぜなら私たち一人ひとりが、みんなのための環境を豊かにするからだ。

引用文献『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(アンジェラ・ダックワース著 神崎朗子訳)ダイヤモンド社

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