記憶したいことは繰り返し思い出す(児玉光雄)

 イギリスの認知心理学者エレノア・マグワイア博士は、ロンドン市内を走るタクシー運転手の海馬を、MRI画像診断法で分析しました。その結果、一般人よりも明らかに海馬後部の容積が大きいことを突き止めました。しかも、彼らの海馬後部は、歳を取れば取るほど大きくなっていることが判明したのです。海馬後部は空間的記憶の形成に関与しています。タクシー運転手の海馬後部は、複雑なロンドン市内を常に走ることで刺激され、大きくなったのです。脳は使い続けることで、加齢によって衰えるどころか進化するのです。これまでの「加齢により脳細胞は着実に減っていく」という説は見事に覆されました。

 効率的な知識の習得には、脳の機能をしっかりと理解して学習することが重要です。脳は、入力よりも出力することで記憶を定着させることができるのです。パデュー大学(米国)にある心理学教室で、ある実験が行われました。スワヒリ語の単語を40個記憶させる実験です。学生を被験者にして、いくつかのグループに分けて実験が行われました。この結果、記憶を長期記憶として定着させることができたのは、確認テスト(出力)を繰り返し行ったグループでした。何度も繰り返し学習(入力)したグループは、確かに記憶した当初のテストでは正解したのですが、後日、再テストをしたときの成績は(かんば)しくなかったのです。

 つまり、記憶したい事柄を長期記憶として脳に定着させたかったら、ただ繰り返し学習という入力作業を行うだけでなく、想起(思い出すこと)という出力作業を重点的に行うことが肝心です。参考書の答えの欄にオレンジ色のペンで答えを書き込み、その上に赤色の透明下敷きを重ねることで見えないようにし、答えを想起した後、チェックするという作業の繰り返しは、受験勉強や定期テストでは、定番のテクニックですが、記憶を長期記憶に移行させるためにはとても有効な勉強法なのです。

引用文献 『勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意』(児玉光雄 SBクリエイティブ)

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