【思春期】ホルモンの仕組みを理解させる(アグネス・チャン)

 イライラするのは自分のせいでも、親のせいでも、社会のせいでもない。ホルモンのせいです。

 息子たちが9歳くらいから、私は思春期に向かっての準備をし始めました。まず最初にホルモンの仕組みを教えるのです。

(し)(しゅん)(き)になると、(おとこ)の子は大人(おとな)の男になるために、女の子は大人の女になるために、体が(か)わってくるのよ。その(もと)になるのが『成長(せいちょう)ホルモン』と、女性(じょせい)らしさ、男性(だんせい)らしさを作る『女性ホルモン』、『男性ホルモン』。それが大量(たいりょう)に体の中に出てくるので、このホルモンが出始(ではじ)めると、時々(ときどき)イライラしたり、ムカムカしたり、(ねむ)れなかったり、(な)きたくなったり、(わら)いが(と)まらなかったり、(お)きれなかったりするよ。そのくらいホルモンって力が強いの。自分の気持ちがコントロールできなくなるほどにね。だから、思春期(ししゅんき)になって、(きゅう)にイライラしたり(おこ)りたくなったりしても、(だれ)のせいでもないからね。自分のせいでも、ママのせいでも、(とも)(だち)のせいでも、社会のせいでもない。ホルモンのせいだからね」と(はな)します。

 そして、「でも、ホルモンは一日のなかでも(なみ)があるから、()()けば、普段(ふだん)(どお)りの自分に(もど)るのよ。だから何かイライラしたときでも、あわてないで。()()いて()()りましょうね」と(はげ)ますのです。

 この(ごろ)、イラストなども見せて男女の体の変化(へんか)(おし)えて、簡単(かんたん)(せい)教育(きょういく)(はじ)めます。「このようにして、人間は()(のこ)り、子孫(しそん)(のこ)してこられたの。思春期(ししゅんき)()ぎれば、人生(じんせい)一番(いちばん)(たの)しい季節(きせつ)がやってきます。体は(いち)(ばん)(げん)()だし、人を()きになったり、(ゆめ)実現(じつげん)したり、最高(さいこう)(たの)しい日々(ひび)()っている。だから頑張(がんば)ろうね」と(はな)します。

 こうしたホルモン教育(きょういく)をしたおかげで、三人の息子(むすこ)たちには、いわゆる反抗期(はんこうき)はありませんでした。

 時々(ときどき)イライラしていて、大声(おおごえ)(おとうと)怒鳴(どな)るようなこともありました。でも、気分(きぶん)()()いたら、ちゃんと(おとうと)(あやま)ったりします。「お兄ちゃんのせいじゃないのよ、ホルモンのせいだからね」と言って、私も兄弟(きょうだい)(わら)わせたりしました。

 思春期(ししゅんき)()(かん)時期(じき)です。そのとき、自分の()(あん)(てい)()()ちの(げん)(いん)()(かい)できないと、「なんかムカつくな! きっと、あいつが(おれ)()たからだ!」「(おや)のせいだ」「先生(せんせい)のせいだ」と()どもはイライラの原因(げんいん)(べつ)のところに(さが)そうとするのです。そして、もし(おや)も、ホルモンの仕組(しく)みをよく理解(りかい)していなければ、「反抗期(はんこうき)(はい)ったかな」と(おも)って、できるだけ子どもを(おこ)らせないようにと()をつかうばかりで、結果(けっか)として、親子(おやこ)(きずな)(うす)れていくのです。

「イライラするのはみんなが体験(たいけん)する自然(しぜん)現象(げんしょう)だからね」「時期(じき)()ぎれば、いつも(どお)りに(もど)るから、大丈夫(だいじょうぶ)。いいえ、もっと成長(せいちょう)した、素敵(すてき)な自分になるからね」と(はや)くから(おし)えてあげれば、子どもは()()いて、思春期(ししゅんき)()()ることができます。

 思春期(ししゅんき)は、学業(がくぎょう)本格的(ほんかくてき)に力を入れるときでもあります。そのときに、ホルモンの仕組(しく)みを理解(りかい)しているかどうかは、学習(がくしゅう)(たい)する集中力(しゅうちゅうりょく)にも大きく影響(えいきょう)します

 ぜひ、思春期(ししゅんき)に入る(まえ)に、子どもにホルモンの仕組(しく)みを(おし)えてあげたいものです。

引用文献『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』(アグネス・チャン著 朝日新聞出版)

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