テストの点を上げる方法(陰山英男)

質問 私はいつも頑張って勉強しているのですが、テストの点が上がりません。やはり私は頭が悪いのでしょうか?

 テストの点を上げるには、しっかり準備し、テストの受け方を練習しないといけません。

「本当の学力と受験のための学力は違う」

 よく言われることですが、その通りです。しかし、だからといって受験学力は低くてもいいということにはなりません。なぜなら、今の社会ではテストに合格しないと、生活することがより難しくなってしまうからです。

 受験というと、中学校、高校、そして大学など学校の入学試験がすぐに思い浮かぶでしょうが、それだけではありません。たとえば運転免許の試験にも筆記試験がありますし、司法試験や医師の国家試験、就職試験、教員採用試験などにもすべて筆記試験があります。このように、何をするにも筆記試験なしには進められないほど、筆記試験は重要です。「テストの受け方は、学力とは関係ない」と思うかもしれませんが、現代を生き抜く力としてとても重要です。したがって、私は、テストの受け方を徹底的に指導してきました。これを実行するだけで、学力が変わらなくてもテストの点数は簡単に十点くらい上がりました。なぜそうまでしてテストの点を上げるかというと、せっかくいい授業をして理解させ、学力を高めたとしても、それだけではテストの点は上がらないからです。

 テストは、問題を作った人との対話、あるいはゲームです。いかに効率よく学習したとしても、出題の意味を理解し、それに沿って答えなければ点は取れません。

 いい勉強をして学力がついたとしても、テストの点が低いと子どもは自信を失い、次の単元から学習意欲を失っていくのです。ですから、学力を伸ばしたうえで、必ずいい点を取らせてあげないといけないわけです。

 一方、しっかり学習し、テストの点も高ければ、次の単元での子どもの意欲は高まり、学習態度はとてもよくなっていきます。そして、本当に学力そのものが向上していきます。スポーツには勝ち負けがあり、誰かが勝てば誰かが負けますがが、勉強はみんなでよくなることができます。そこが勉強のいいところです。

 いい学習態度になれば、テストの点が高まると多くの人は思うでしょう。しかし現実は逆です。いい点を取らせることで、学習態度がよくなるのです。だからこそ、私はテストの点の上げ方にもこだわりました。

 では、テストの受け方はいつ、どのように練習させればいいのでしょうか。

 私は、年度初めの最初のテストのときに練習させていました。テストを受ける前、子どもたちに「問題をよく読むこと」「きれいに書くこと」「徹底して見直すこと」「時間配分を考え、最後まで頑張ること」、さらに、これらができなければ厳しく注意すると伝えておきます。その結果をふまえ、子どもたちがテストでいい点を取れない理由は、次の四つに集約されると私は見ています。

 ①テスト調べ(テストの問題を予測し、それを解くための復習)をしていない

 ②字が汚い

 ③問題を読まない

 ④見直しをしない

 まず、①の子どもがテスト調べをしないのは、きちんとテストの告知がなされていなかったからです。私はテストの予告を必ず行い、どのような準備をすればいいかまで教えます。そしてテスト当日は、テストの準備をしたかを確認します。多くの子どもは、わざわざ準備の方法まで教えれば、おおむね勉強してきます。それでも勉強してこない子は何かの事情を抱えていますから、後で個別指導をすることにします。

 ②の字が汚い子どもというのは、テストを軽く見る傾向が強く、名前の書き方から汚いので、私は見逃さずにすぐ書き直しをさせます。入学試験でもよく名前の書き忘れがあるという話を聞きますが、それは普段から名前をきれいに書く指導がなされていないからです。このようなことを避けるためにも、名前をきれいに書かせることは絶対に必要です。

 汚い字で名前を書くことをなかなか直さない子どもには、私がその子の名前を汚く書いて見せます。そんな子どもほど怒りますが、私はそれに対して次のように言います。

「いつも君は名前を汚く書くので、それが好みなのだろうと思って、汚く書いてあげたんだけどな」

 すると、その子どもは、次からは名前をきれいに書くようになります。

 ③の問題は読まない子どもは、テストの基本問題でミスをしがちです。この場合、テストの巡回中に指導することが重要です。気が弱い子には優しく、怠けがちな子には厳しく注意します。「問題を読んでいない」と注意されると思わせておけば、かなり改善されます。

 そして、できた子からテストを提出させます。そうすると、だいたい早く終わりたい子どもから持ってきます。そういう子どもは、見直しなどはしていません。④に該当します。「見直しされてない答案は見ない」と言って、私は答案を見ることもなく、すぐに突き返します。子どもは「ばれているな」と思ってすぐに引き返しますが、そういう子はまた見直したふりをして持ってきます。そんなときは、もう一度同じように、答案を見ることもなく突き返します。そんな子がきちんと見直しをするようになるのは、答案を二回くらい突き返されてからです。

 そうこうして三回目を持ってきます。今度は私も答案を見ます。答案を見ながら正誤を確かめ、まだ自分でやり直せるようなら、さらに突き返すこともあります。そして四回目に持ってきて突き返そうとすれば、その子はさすがに怒るでしょう。それは、ようやく本気で見直しをした証拠ですので、ごほうびをあげることにしています。

「三番の二って気持ち悪くないかな。割り算したくなるよなぁ」などと言って、ヒントを与えます。すると、自信がなかったところがわかるようになるので、今度は自分から席に戻って一気にやり直します。こうしておまけしてできた答案でも、返却するときは「よく頑張ったね」と言ってあげます。それが今までにない高い点であればあるほど、子どもはうれしい気持ちでいっぱいになり、次の授業から真面目に取り組むようになります。

 こうして取った高得点については、私はさらに指導を入れて、保護者に「お子さん、今日は本当に頑張っていい点を取りましたよ。素晴らしいです。私もうれしくてついお電話しました」と伝えます。こうすれば、保護者にも喜ばれます。

 テストを見直さずに提出する子どもというのは、高学年や中学生になると問題を起こす可能性があるので、早い段階から保護者とのコミュニケーションを取るようにしておくと、後々楽になるわけです。

 返却された答案やテストは、必ず子どもにファイルさせましょう。なぜなら、学期末のテスト対策の重要教材となるからです。学期末のテストは、学期中に学んだすべての単元が出題範囲になるので、とても全部の復習はできません。しかし、テストをファイルしておけば、間違えたところを重点的に復習すればいいので、効率的に準備ができます。弱点が見えれば、その後の学習にも生かされます。たとえば、陸上競技の得意な人が、必ずしも鉄棒が得意とは限らないように、計算が得意でも図形が苦手だという子はたくさんいます。その理由は間違いの傾向をたどることで見えてくるのです。

 たとえば、子どものころ、折り紙やブロックなどの遊びを十分にしていないと、頭の中で図形を思い描くことができず、図形が苦手になってしまいます。また、定規やコンパスの使い方が不器用で、図を描くのが遅いがために苦手になる場合もあります。

 あるいは、小数の学習では、意外と小数点の打ち方がわかっていないだけという場合が多いようです。ですから、数字を簡単にして小数点の打ち方に特化した練習をする、簡単に解けるようになることもあるのです。

 同じように、テストで百点が取れないのにも理由があります。

 たとえば、同じ八十点のテストの答案でも、最後の応用問題ができていないのか、最初の基本問題でつまずいているのかで大きく違います。また、時期によって点が良かったり悪かったりするケースもあり、これらにはそれぞれ理由があるのです。

 一般的に、テストの終わりのほうの問題で間違える子どもは、文章を読み解くことが苦手です。算数ならば文章題、国語であれば読み取りの問題など、文章が込み入ってくると読み解くことがいやになるのです。ですから、解ける問題を早めに終わらせ、終わりのほうの問題にじっくり時間をかけるようアドバイスしてください。そうした配慮でテストの点が上がりやすくなるのです。

 一方、テストの基本問題で間違いをしてしまう子どもは、早くテストを終わらせようとして、問題をしっかり読まないまま解いてしまうことが多いです。一回一回、問題を解いたらサッと見直しをして、テストが終わってからもう一度見直しをするようアドバイスしましょう。そうすることでテストの点は上がっていきます。

 時期によって点が良かったり悪かったり、規則性のない子は、生活や気分にムラがあります。生活習慣を見ると、夜更かしをしていたり、誰かと(けん)()をしていたり、あるいは家庭の環境も安定しない場合が多いはずです。こうした子どもには、自分の生活を振り返りながら、落ち着いてテストを受けるようにと指導するだけで、ずいぶん変わってきます。学習上の小さなつまずきや、生活や心のあり方は、意外と素直にテストに表れます。

 このように、学習や生活習慣のどのような点を注意しなければいけないのか、子どものテスト結果を振り返りながら分析してみるといいでしょう。

 

ここがポイント

問題をよく読む

答案用紙はきれいに書く

時間配分を考え、最後まで頑張ること

『陰山式 ぜったい成績が上がる学習法』(陰山英男著 毎日新聞出版)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次